あたしの愛、幾らで買いますか?
笹井は何度

百合子の名前を呼んだのだろう。

彼の薄い唇から紡ぎ出される音に乗って

百合子へ愛しさとか

愛の言葉を囁くのだろう。

それを考えるだけでも、

気持ちが悪くなってきた。


「ごめん、
 もう切るね」

『忙しそうだな、お前。
 ゴメンな』

「……」

『じゃ、
 また明日』


笹井の言葉を遮るようにあたしは

電話を切った。

投げるように携帯を放って

バタバタとトイレへ駆け込んだ。

まるで笹井から吐き出された言葉たちを

体内から出すように。

水分しか摂っていないあたしの体からは

液体しか出てこなかった。


苦しいけれど、溜め込むよりマシだ。

もっと出ろ、もっと出ろ。

内臓でも何でもいいから出てきて…


あたしは、そんな事を思いながら

指を喉に入れた。




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