あたしの愛、幾らで買いますか?
パタンと閉まる玄関。

この部屋でたった

一人きりになったあたし。

撮影に行く彼を送り出し

今日は何もされずに優しいまま

彼は行った。

あたしの口からは

深い深い溜め息が出る。

後悔とか、そういうものじゃなくて

‘安堵’というところだろうか。

でも、

ポツリと部屋に残されたあたしに

少しだけ寂しさが込み上がってくる。


朔羅一人居なくなっただけで

部屋の温度が低くなったような

気すらする。


あたしは朝食の後片付けをする。

炊事をするようになってから

手が少しカサカサするような気がするけど、

そんなあたしの手を心配して彼が

桃の匂いがするハンドクリームを

買って来てくれた。


そんな些細な事すら、

あたしは彼との暖かい思い出として

頭の片隅にしまっておくのだ。


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