あたしの愛、幾らで買いますか?
着信の主はエリだった。


「もしもーし」

『歩美?今、平気?』


エリの声は相変わらず明るかった。

あたしは、エリの声に集中する。


「大丈夫だよ。
 今、外歩いてるし」

『こんな時間に?』

「今からご飯作ろうと思って…
 でね、材料が足らなかったんだ」

『こんな時間に作って食べるの?
 太るよー』


他愛もない会話をして笑い合う

あたし達。


「エリが電話するの珍しいね~」

『あ、そうそう。
 歩美、退学したって本当?』

「え?」


結局、あたしは退学届けを

書いてすら居なかった。

書く気力がなかったという方が

正しいのかもしれない。


『なんかね、
 今日出席簿チラ見した子がね
 歩美の所が斜線で消されてたって…
 だから、
 本当かどうか電話したんだけど…
 やっぱり、でたらめ?』


心当たりが無い訳ではなかった。

何日か前に

母からメールがきていた事を

薄っすらと思い出した。

確か、

‘退学届け本当に出すの?
 時間がないならママが出しとくよ’

そんな内容だった。



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