あたしの愛、幾らで買いますか?
あゆと出逢う前の俺は

【俺】である前に

【滝川春人】だったんだ。

実際、俺の事を‘朔羅’って呼ぶのは

滅多に会えない家族と

あゆだけだった。


いつか、あゆが俺の事を

好きだと言ってくれたね。

凄く嬉しかったよ。

この不安定な芸能界という世界を

去ろうとも考えた。

事務所の社長にも相談した。

だけど、返ってきた言葉は

「別れろ」

それだけだったんだ。

あゆとひっそりと会っていたのも

俺とあゆの秘密の筈だった。

あゆがテレビに執着のない子で

よかったとも思ったんだ。

自分が、そんなに売れているとは

思っていないけれど。
(休みが取れるくらいだしね)

徐々に街を歩くのにも抵抗が出てきた。

CMが流れる事で

俺の隣を通り過ぎていく人が

「滝川春人じゃない?」

そんな風に言うのが苦痛だった。

これじゃ普通のデートすら出来ない。

あゆを守れない。

そう思った。

そんな矢先だったんだ、

週刊誌にあゆと俺が載ってしまった事。


それでも、あゆは俺の傍に居てくれると

言ってくれたね。

嬉しかったよ。

だけど、あゆの真っ直ぐな愛情が怖かった。

揺るぎないあゆの愛情が怖かった。

どうせ、愛情なんてものは

消えてしまうと思ったから。

俺はね、

目に見えないものは信じていないんだ。


あゆは、この気持ちわかってくれるかな?


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