あたしの愛、幾らで買いますか?
不意に抱き締められた。

自転車はガシャンと音を立てて

倒れた。


「笹井?」


―トクン…トクン…


笹井の肩にあたしの耳が触れる。

その時に聞こえた、彼の鼓動。

少し早い鼓動。

洋服の上から感じる鼓動は

初めてのような気がして、

とても新鮮だった。


きっと一生懸命自転車を

漕いで来たのだろう。

じんわりと汗を感じる。


「歩美…」


たまに出る笹井からの

『歩美』

という言葉。

自分の名前なのに、

不思議な呪文みたいだ。




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