あたしの愛、幾らで買いますか?
どのくらいの時間

抱き合ったのだろう。

たまに吹くそよ風が気持ちがいい。


抱き締められていたけど、

あたしは腕を彼の背中に

回せなかった。

完全に固まっていた。


笹井の手が緩んで、

また視線を絡める。

少し高いところから視線を

落とす彼が妙に色っぽかった。

知らない人みたいだった。

これは月明かりの所為かな…?


「送っていく」


そういう笹井は教室で見たことのない

表情で言う。


「いいよ。
 すぐそこだし」


あたしは一人で帰ろうと思ってた。

今日は月明かりが眩しい。


「駄目。
 何かあったら困るだろう?」

「何もないよ…
 狼がついてくるほうが問題」

「狼って俺?」

「他に誰がいるのよ」


笑いながら、そんな話をしてた。

笹井は自転車を手で押しながら、

あたしの歩調に合わせてくれていた。



< 62 / 484 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop