あたしの愛、幾らで買いますか?
3分も歩かないうちに、

アパートへ到着した。


『それじゃ』


と言って家に帰ればいいのに、

その言葉がなかなか出てこなかった。


しばらくの沈黙が続いた。


「気を付けてね」


あたしは、そう言って

アパートの階段を上がろうとした。


「なぁ、安藤」


笹井に呼び止められた。

くるりと振り返って、

笹井を真っ直ぐ見つめる。


「何?」

「お前、自分が
 ‘ひとりぼっちだ’と思うか?」


どうして、彼は

こんな事を尋ねるのだろう。

全く意味がわからなかった。


「それがどうしたの?」

「思うか思わないか聞いてるんだよ」

「別に。なんだっていい」

「そっか…」


溜め息混じりに言う彼。

それが妙にあたしをイラつかせた。


「聞きたいことはそれだけ?」

「……」

「それだけなら、
 あたし、部屋に戻る」

「おう」

「じゃ」


足早に階段を駆け上がって、

部屋に戻った。

< 63 / 484 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop