桜に導かれし魂
全部、ぜんぶ
………悪い夢ならいいと願ってた。
「楓ね癌なんだ。
それも末期の…………………
もうすぐ死んじゃうんだって」
俺の頭に無数の涙を落としながら
楓は話してくれた。
ほんとうは泣きたかった。
叫びたかった。
全部嘘だといってほしかった。
でも俺を力いっぱい抱きしめながら
涙を流す楓が謝るたび遠まわしに
これが現実なんだよといわれているきがした。
「右京、覚えてる?
小さい頃の約束……覚えてる?」
「約束?」
「……覚えてないか…、そりゃそううだよね」
顔をあげた俺の前には
やっぱり泣いている楓がいた。
守りたくて、守りたくて………
1番守りたかったはずの君に
守られていたのは俺のほうだったのか。
あぁ……………今思い出したよ、楓。
忘れててごめん。
「おっきくなったらかえでを
きょうちゃんのおよめさんにしてね」
「うん!」
「よくそくだよ………………」
ほんとはいつも怖かったんだ。
楓との関係を変えるのが怖くて、
俺は自分の気持ちを殺してた。
気づいてないふりをしてた。
ふたをしてたんだ、自分の気持ちに。
そうすればいつも楓が隣で
笑ってくれたから。
甘えてたんだよ、楓に。
いまでも関係が変わってしまうのは
すごく怖いよ。
でもそれよりも
お前を傷つけるほうが怖いから
…………今、剣をとる。