桜に導かれし魂
急ぐ俺をよそに玲夜が口を開いた。
「桜すごいな」
俺たちが今通っている道は両サイドにたくさんの桜の木が並び無数の花びらが舞っている。
「そうだな」
春が終わろうとしていた。
暑い夏がやってくる。
楓がうちに泊まりにきてからもう1ヶ月が経った。
いまは6月。入学したときから着ていたブレザーももう必要なくなり今日から夏服に衣替えをした。
新品の白い半袖のシャツに腕を通しネクタイをしめた。
楓の調子はけしていいとはいえないが悪くなっている様子もない。薬のおかげであまり進行はしていないように見えた。
そう………………俺には。
このままいけば楓は逝かないんじゃないだろうかと思っていた。楓と別れる未来なんてみなくていいんじゃないかと。
その時の俺は楓との時間がなくなるなんて少しも、これっぽちも考えていなかったんだ。
別れは突然やってきた。
その日は大雨だった。