桜に導かれし魂

今日も俺はいつも通りの時間を過ごしていた。だけど今日の玲夜はどこかよそよそしげで1日中ぼーっと窓の外を眺めていた。
授業が終わったらすぐに楓のところにいくつもりだったんだけど俺は先生に頼資料室にある資料をまとめてくれと頼まれてしまったので先にいっといてといい玲夜ひとりだけを楓のもとへ向かわせた。

数十分後俺は土砂降りの中病院へと足を運ぶ。
うわ、シャツびしょびしょだ。玲夜は大丈夫だったかな。
のんきにクリーム色の廊下を歩きながら楓の病室の扉を叩いた。
「悪いな遅くなって」
「………きょうちゃん…」
楓に気をとられていたせいか玲夜のいないことに気づくのには少し時間がかかった。
「あれ…玲夜は?」
「花の水かえにいってる」
「そう。じゃありんごでもむこうか」
2番目の棚から果物ナイフをとりだしてりんごに刃をたてる。


そのとき背中から声がした。
俺の後ろにいるのはひとりしかいない。楓の声だ。
「きょうちゃん…………」
俺は振り返らずに返事を返す。
「ん?」
「…………………」
なかなかかえってこない返事を不振に思い、俺は後ろを振り向いた。
「かえ?」
うつむいたまま彼女は消え入りそうな声で呟いた。
「別れて」

心臓をわしづかみされたみたいだった。
楓は目を合わすことはおろか、顔をあげようともしない。
声の出し方を忘れたみたいにでてこない声を振り絞って問う。
「な、んで」
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