桜に導かれし魂
君は泣いていた。
その姿がいつかみた楓と重なって俺はみたこともない彼女を抱きしめた。
「っ?!え、あの………」
彼女の声にはっとして体を離す。
「わ!ごめん!その……泣いてたから………」
「ちがうの……ちょっと嫌な事があって、それで……」
「やっぱり泣いてたんじゃないか」
俺がそう言って涙を拭ってあげると彼女は
「じゃあ、ちょっとだけ胸借りてもいいかなぁ………」
再び泣き始めてしまった。





どうやら彼女が佐久間 朱里らしい。
俺の胸で泣いている佐久間の腰あたりまである長い髪の毛からは楓と同じ匂いがした。
綺麗な顔立ちに、女子にしては高めの身長。髪だけではなく手足もながい佐久間はモデルみたいだ。

泣いた理由はわからない。というより聞けなかった。あまりにも佐久間が静かに涙だけをおとすから。遠まわしに聞かないでと言われているような気がしたから。


しばらくするとズズッと鼻をすすりながら
「ごめんね」
と佐久間は微笑んだ。
「小湊君だよね?私は
「佐久間だろ?佐久間 朱里」
「そうよ。あ、りかから聞いた?」
りか?りかりかりか…………
「あぁ、うん。たぶんそう」
佐久間の言うりかというのはきっと当番を代わってくれといってきた彼女のことだろう。
「さて……本の整理始めよっか。あ、朱里でいいからね、右京君」
「君なんかつけなくていいよ。呼びにくいだろ」
「ふふ、そうね」
口にてを当てて笑う朱里はどこか楓に似ている気がした。
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