桜に導かれし魂
入り口には玲夜の姿があったことをこのときの俺はまだしらない。



俺たちが付き合って数ヶ月がたった。もうすぐ俺たちは2年生になる。
お互い気持ちがないことはわかっていたけど俺も朱里も口にはしない。
ひとたび口に出してしまえば壊れてしまうから。
守りたかったんだ。朱里の心も、俺自身も。



そして今日も偽りの愛を求めて図書室に向かう。
「いらっしゃい」
「なんかさまになってきたな」
「毎日来てたらそういうものじゃない?右京だってそこの席に着くのが板についてるわ」
「眼鏡かけて本でも読んでたら秀才っぽくみえるかな?」
なんて呟きながら鞄から眼鏡をとりだす。
「あら、右京眼鏡かけるの?」
「あぁ。最近視力落ちてきたみたいで授業中だけしてるんだ」
「へ~。ちょっとかして」
俺の手から眼鏡を取り上げると自分にかけてみせた。
「どう?」
ほんとに君には容姿端麗なんて言葉がよく似合うよ。
「似合ってる。けど」
「けど?」
頬を緩めて朱里の耳から眼鏡をはずして顔を近づける。
「あったら邪魔だろ」
「もう………んっ」
角度を変えて何度も何度も口付ける。そのたびに朱里からは甘い吐息がこぼれた。

ほとんど毎日のように体を重ね合わせても心は一向に咬みあわない。いつも大きく道を外れてすれ違う。

「あっ………うきょ……」
「朱里……」
息の上がった朱里の唇に噛み付くようなキスをする。
「んっ…………は、右京……!」

大きな隙間を埋めたくて。
偽りの愛を求めてはちいさな光を探した。





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