桜に導かれし魂

灯火

もう会うことも、見ることもないと思っていた楓が目の前にいる。手の届くところにいる。
「はぁ、……は、きょう、ちゃ…」
懐かしい声が俺を呼ぶ。苦しそうに。だけど幸せそうに。
「かえ………」
もう触れることはないと思っていた楓の頬にそっと触れる。わずかに残った力を振り絞るように楓の手が俺の手に触れる。そして囁いた。
「ケホッ…はぁはぁ、もう……はぁ、あえないかとおも、った……」
「……っ!」
いいたいことはたくさんあるのにうまく言葉にできない。
ばかな俺にでもわかってる。楓の命が尽きようとしていること。命の灯火がいままさに消えようとしていること。





「ゴホ!……きょうちゃん………ごめ、ね………」



ピ――――――――――――――――
不快な機械音が耳に届く。
見慣れたはずのやわらかい微笑みがこの言葉を最後に消えた。
「かえ!楓!!」
楓が死んだ。
「っ……!かえで――――!!!」




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