桜に導かれし魂
『きょうちゃんへ



きょうちゃんがこの手紙を読んでる頃には楓はもうきょうちゃんの側にいないんだね。
ほんとはもっといっぱいしたいことがあります。
話したいことがあります。
見てみたいことがあります。
行きたい所があります。
だけど末期の癌だと知らされた時点でこのたくさんの願いは叶えられないとわかったので願うことをやめました。
だけどどうしても願いの中にひとつだけ諦めることができなかった願いがありました。
なので玲ちゃんに頼みこんで、玲ちゃんの力を借りて叶える努力をしようと決めました。
楓はね誰よりも長くきょうちゃの隣にいていっしょに怒って
いっしょに泣いて、笑って大きくなってきました。
そのぶんたくさんケンカもした。でもいっつも楽しくて楽しくて
自分が病気なんだってこと忘れてた。
だからきょうちゃんにだけは知られたくなかったの。
病気のこと、末期の癌だってこと。絶対心配するから。
自分のことなんかほったらかしにして、心配して、きっと楓になにかあったら
自分さえも犠牲にしちゃう。
楓のために自分を傷つけちゃう。
楓が死んだら、それさえも自分のせいにして自分を責め続ける。
そして、笑わなくなってしまう。
そう思ったからきょうちゃんから離れることを決めました。


勝手に決めるなって泣いてる?
俺の幸せは俺が決めるんだって怒ってる?
でも、許してね。
きょうちゃんの笑顔を守ることが楓の選んだ道だから。
運命だから。

離れることが優しさだと思った。
それがきょうちゃんの幸せにつながるんだと思った。
別れを選んだあの日から毎日きょうちゃんは来ません。
楓が選んだことなのに今日も寂しいです。
それからかわいい彼女ができたことも聞きました。
繋いだ手を離したのは、楓。
優しい温もりを突き放したのも楓。
なのに涙がとまりません。
楓が望んだことなのに、きょうちゃんが楓以外の女の子と一緒にいるところを
想像しただけで冷静ではいられません。
だけど悪いことばっかりじゃないよ。
きょうちゃんが楓の側からいなくなったことで死ぬことが怖くなくなった。
泣くだけ泣きました。
たくさん弱音もはきました。
ここから、この世界からいなくなる準備もできました。
あとはこの命の光が消えるのを待つだけです。













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