桜に導かれし魂
「…ふっ」
「ははは」
「ふふ」
俺たちは目を見合わせて笑った。
誰も楓を忘れない。ささいなことで楓を思い出し、楓を想う。
「ほんっとに私たちって、揃いも揃って楓大好きだよね!」
「だな」
「あぁ」
そのとき俺を呼ぶ声がした。
「右京?」
俺の正面に立つふたりの顔から笑顔が消えた。
「…うそで、しょ………」
「な、んで…………」
俺たちの後ろには
「久しぶりだね、右京」
高市 湖夏がいた。
「「………楓」」
目を見開いて声を荒げるこまちと玲夜。
その声にびっくりして目をまるくする高市。
そして険しい顔をして楓そっくりの彼女をみつめる俺。
「私は楓じゃないわ!湖夏よ!!」
彼女は少し怒ったように名前を告げた。
「こ、なつ…?」
「嘘よ……だってこんなに」
ふたりが驚くのも無理はない。俺も彼女と出会ったとき正気ではいられなかったからな。
「ふたりとも、彼女は楓じゃない」
「お兄ちゃん……?」
「右京知ってるのか?」
「あぁ。前に一度ここで会った」
「そうか……。ごめん。高市さん、取り乱してしまって。あまりにも知り合いに似てたから」
礼儀正しく謝る玲夜の後ろでこまちもちいさく頭を下げる。
「…ごめんなさい」
「そんなに謝らないでよ。転校してきたの、仲良くしてね。じゃあまた」
そう言った彼女は俺たちに背を向け桜の花びらの中に消えていった。