桜に導かれし魂
「転校生の高市 湖夏さんだ」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ、席は……小湊の隣だな」
な?!
俺が嫌そうだって?あたりまえさ。なにが悲しくて、最近亡くなった幼馴染そっくりの女の子としかも隣の席で過ごさなくちゃいけないんだ。拷問もいいとこだって………
「右京、おんなしクラスだったのね!よろしく」
「あぁ…………」
ため息をつき苦痛を隠せない俺に対して高市と男子生徒は妙に楽しそうだった。
「おい、めっちゃかわいくねぇか?!」
「佐久間にひけとんないだろ!」
「彼氏とかいんのかな~」
女子が静かになったと思ったら次は男子かよ………。
まいったといわんばかりの表情で玲夜をみつめると口パクで頑張れと言われた。
人事だと思って……
「はーい、静かに~!!もうすぐ入学式だから廊下に並んどけ~」
ガタガタとみんなが席を立り、廊下に向かう中玲夜だけが俺のほうにやってきた。
「まいっちゃうね、右京」
「お前、人事みたいに言うけどなぁ……ほんとかんべんしてほしいよ」
「ふたりとも並ばないの?」
不意に聞こえた声に驚いた俺たちは同時に後ろを振り返る。聞き覚えのある声の主は……
「…高市」
「…高市さん」
「やめてよ、高市さんだなんて。湖夏でいいわ。ほら言ってみて」
まいったななんてもんじゃない。話せば話すほど楓にしかみえない。
眉間にしわをよせいまにも泣き出しそうな顔をしている俺の頭を玲夜がぽんと叩き彼女の名前を呼んでみせた。
「じゃあよろしくね、湖夏。俺は長崎 玲夜。玲夜でいいよ」
「れい、や?うん、わかった!」
俺も玲夜くらい大人びてなんにもなかったみたいに笑えればいいのに。俺にはできない。
「ほら、右京も呼んでよ」
「…………こ…なつ」
消え入りそうな声で彼女の名前を呼ぶと湖夏は嬉しそうに笑っていた。
胸が痛いのはなんでだろう…………
「おーい!お前ら早く行くぞ!」
先生に呼ばれ教室を後にする。窓からは綺麗な桜が見えて、また泣きそうになった。




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