彼氏のこと。





「あたし指輪がほしい」



「ふーん」



.........え?



普通の会話と同じ早さで
自然に出てきた言葉



テレビを見たままの賢くんを
すがるように見つめた



困惑と落胆と少しの期待で
苦笑いするしかなかった



「買ったら?」



え?



「あたしペアリングが――」



「俺さ」



賢くんが
あたしの言葉を遮った



「俺..勉強するわ」



テレビを消して
ノートや参考書を広げる



そっか



そっか



賢くんはもう
あたしとの将来なんて
忘れちゃったんだ



我慢してきたことが
一気にこみあげた



「もう..会わない」



涙が止まらない



「もういい
指輪なんかいらない!!」



部屋を飛び出して走った



泣いてるせいで苦しくて
呼吸できなかったけど
走るのを止められなかった



走って走って走って
呼吸が限界になった頃
あたしはゆっくり止まった



涙はもう出ていなかった



呼吸が落ち着くにつれて
さっきの時間を振り返る



走ってきた道



追いかけてほしかった



止めてほしかった



賢くん



1度もあたしを見なかった





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