六天楼の宝珠〜亘娥編〜
「だから、でしょう。詳しい事情はわたくしにはわかりかねますが。どうしてもと仰るのであれば、許可を頂いて下さいませ」
槐宛ならばともかく、恐らく他意はないのだろうが──皮肉だろうかと勘ぐってしまう。
夫を遠ざけてから早三日目、もはや完全に仲直りする時機を逃してそのままにしてしまっていた。
最初の頃こそ感じていた憤りも冷え、今ではあちらに落ち度があったわけではないとさえ思えている。
だからこそどれほどに怒っているかと恐れて、つい後回しにしたいという逃げと、会えない寂しさとの板ばさみになっていたのだが。
「……わかったわ。許可をもらってくれば良いのでしょう。付いてきて」
「どちらへ」
「もちろん決まっているじゃない。──御館様の所よ」
今ならまだ執務に向かう前だろう。
翠玉は庭に降り立った。
邸の当主が棲まう東の奏天楼は、彼女が起居する西楼とちょうど向かい合う位置にあった。
普通に行くと、各楼を繋ぐ廊下を渡り南か北の楼を通り抜けなければならず、家人に出会う機会も多い。
格式ばったものに未だ慣れない彼女にとって、庭をまっすぐ突っ切った方が話は早いと思われた。
──大分庭の様子もわかって来たし、迷わなければすぐに着けるもの。
阿坤も今度は反対せず、黙って後に付き従っていた。
薄曇りの空のせいか庭はやや暗く、邸の中も今日はあまり良く見えない。
それでもほどなく見えてきた建物の中、開いた房の奥に目指す人物の姿を認めると翠玉の心は躍った。
槐宛ならばともかく、恐らく他意はないのだろうが──皮肉だろうかと勘ぐってしまう。
夫を遠ざけてから早三日目、もはや完全に仲直りする時機を逃してそのままにしてしまっていた。
最初の頃こそ感じていた憤りも冷え、今ではあちらに落ち度があったわけではないとさえ思えている。
だからこそどれほどに怒っているかと恐れて、つい後回しにしたいという逃げと、会えない寂しさとの板ばさみになっていたのだが。
「……わかったわ。許可をもらってくれば良いのでしょう。付いてきて」
「どちらへ」
「もちろん決まっているじゃない。──御館様の所よ」
今ならまだ執務に向かう前だろう。
翠玉は庭に降り立った。
邸の当主が棲まう東の奏天楼は、彼女が起居する西楼とちょうど向かい合う位置にあった。
普通に行くと、各楼を繋ぐ廊下を渡り南か北の楼を通り抜けなければならず、家人に出会う機会も多い。
格式ばったものに未だ慣れない彼女にとって、庭をまっすぐ突っ切った方が話は早いと思われた。
──大分庭の様子もわかって来たし、迷わなければすぐに着けるもの。
阿坤も今度は反対せず、黙って後に付き従っていた。
薄曇りの空のせいか庭はやや暗く、邸の中も今日はあまり良く見えない。
それでもほどなく見えてきた建物の中、開いた房の奥に目指す人物の姿を認めると翠玉の心は躍った。