六天楼の宝珠〜亘娥編〜
「そう言えば、貴方は鉱石が好きだと聞いていたけど。この本には瓊瑶は載っていないみたいだな」
「違うわ。私が好きなのはごく自然のものよ」
手にしたのは、山河にある石の種類と特徴について書かれたものだった。
「女性は大抵、瓊瑶が好きなのだろうと思っていたが」
「貴方の知っている女性が、でしょう。少なくとも私は興味がないわね」
言ってしまってから季鴬は決まりが悪くなった。これではまるで、自分が彼女達に嫉妬しているみたいではないか。
「……自然の中の石や草花は、そこにあるから美しいのよ。女の身を飾る為にある瓊瑶とは違う」
恥ずかしさをごまかす為に、今まで侍女にさえ言わなかった思いを口走った。
ふうん、と気のない相槌を打ちながら、慎文は書物をぱらぱらとめくる。
「瓊瑶だって元々は山奥にあるただの石じゃないか? 美しいと決めたのは人間の感覚さ。そしてほとんどの人間は、美しいものを手に入れたがる」
たとえばほら、とある頁で手を止めて項目を指差した。
「これは陶の領地の一つで採れる『蛾玉』という石だ。一見白い不透明な石に過ぎないが、割れた角度によっては断面に多色の光彩が見えて実に美しいと言われている。だが偶然割れたものを発見されるまでは、ただの石として採掘場でも邪魔もの扱いされていたんだ。緋鉱石と同じ地層に現れるからね」
石の話題を広げられると思っていなかった季鴬は、俄かに興味を示して書物を覗き込んだ。次いで彼の顔を。
「石に詳しいの?」
「私は色んな事に首を突っ込む性質でね。特に領土内の事には」
返って来たのは、明らかに愉快そうな笑みだった。
「違うわ。私が好きなのはごく自然のものよ」
手にしたのは、山河にある石の種類と特徴について書かれたものだった。
「女性は大抵、瓊瑶が好きなのだろうと思っていたが」
「貴方の知っている女性が、でしょう。少なくとも私は興味がないわね」
言ってしまってから季鴬は決まりが悪くなった。これではまるで、自分が彼女達に嫉妬しているみたいではないか。
「……自然の中の石や草花は、そこにあるから美しいのよ。女の身を飾る為にある瓊瑶とは違う」
恥ずかしさをごまかす為に、今まで侍女にさえ言わなかった思いを口走った。
ふうん、と気のない相槌を打ちながら、慎文は書物をぱらぱらとめくる。
「瓊瑶だって元々は山奥にあるただの石じゃないか? 美しいと決めたのは人間の感覚さ。そしてほとんどの人間は、美しいものを手に入れたがる」
たとえばほら、とある頁で手を止めて項目を指差した。
「これは陶の領地の一つで採れる『蛾玉』という石だ。一見白い不透明な石に過ぎないが、割れた角度によっては断面に多色の光彩が見えて実に美しいと言われている。だが偶然割れたものを発見されるまでは、ただの石として採掘場でも邪魔もの扱いされていたんだ。緋鉱石と同じ地層に現れるからね」
石の話題を広げられると思っていなかった季鴬は、俄かに興味を示して書物を覗き込んだ。次いで彼の顔を。
「石に詳しいの?」
「私は色んな事に首を突っ込む性質でね。特に領土内の事には」
返って来たのは、明らかに愉快そうな笑みだった。