六天楼の宝珠〜亘娥編〜
「緋鉱石は鄭では珍しかったのよ。貴方は採掘場に行ったりするの?」
「時折ね。工業に欠かせない石だから、特に気をかけているんだ。ここでも石を狙って盗賊が現れるぐらい貴重な石だよ」
「そうよね。車に使われていると聞いた事があるわ。確か桐でも……」
彼を何とかして追い出そうとするのも忘れて、気づけば季鴬は夜近くまで夫と話し続けていた。石の話題から始まって、使われているものから山の気候にまで話は及んだが、慎文はそれら一つ一つに造詣が深く、彼女は驚いた。楽しくて笑顔さえ浮かべていた。
──今までまともに会話しようと思わなかったから、わからなかった。
夫としてではなく、一人の人間としてなら仲良くしていけるかもしれない。そのまま彼女の寝台に潜り込んだ慎文の寝顔を眺めながら、季鴬はようやく少しだけ、歩み寄ろうという気になった。
※※※※
年が暮れて月は満ち、生まれたのは健やかな男子だった。
六天楼を始め、陶の領土全てが世継ぎの誕生を喜ぶ声に溢れた。季鴬の元には次々と家臣や楼内の人間が訪れ、祝いの言葉と共に様々な品物を置いていく。
侍女達は取り澄ました側室の顔を陰ながら眺めて、溜飲を下げたらしい。誇らしげな会話は主の耳にも入っていた。慎文が毎日此処に来る様になったから、尚更なのだろう。
「やはり貴方に似ている気がするな。髪の色や、目元なんてそっくりだ。賢い子になるに違いない」
赤子を覗き込んで彼が言うと、周囲に控えていた侍女達も楽しそうに笑った。
「御館様。嬰児(えいじ)の髪の色や顔立ちは成長と共に変わりますぞ。勿論どちらに似ても、怜悧な御子になるのは間違いないでしょうが」
槐苑が横からたしなめて、また笑いが起きる。
見るからに幸福に包まれた光景を、季鴬はどこか遠くに思いながら冷ややかな眼差しで眺めていた。
「どうしたのだ、まだ身体の調子が悪いのか?」
「時折ね。工業に欠かせない石だから、特に気をかけているんだ。ここでも石を狙って盗賊が現れるぐらい貴重な石だよ」
「そうよね。車に使われていると聞いた事があるわ。確か桐でも……」
彼を何とかして追い出そうとするのも忘れて、気づけば季鴬は夜近くまで夫と話し続けていた。石の話題から始まって、使われているものから山の気候にまで話は及んだが、慎文はそれら一つ一つに造詣が深く、彼女は驚いた。楽しくて笑顔さえ浮かべていた。
──今までまともに会話しようと思わなかったから、わからなかった。
夫としてではなく、一人の人間としてなら仲良くしていけるかもしれない。そのまま彼女の寝台に潜り込んだ慎文の寝顔を眺めながら、季鴬はようやく少しだけ、歩み寄ろうという気になった。
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年が暮れて月は満ち、生まれたのは健やかな男子だった。
六天楼を始め、陶の領土全てが世継ぎの誕生を喜ぶ声に溢れた。季鴬の元には次々と家臣や楼内の人間が訪れ、祝いの言葉と共に様々な品物を置いていく。
侍女達は取り澄ました側室の顔を陰ながら眺めて、溜飲を下げたらしい。誇らしげな会話は主の耳にも入っていた。慎文が毎日此処に来る様になったから、尚更なのだろう。
「やはり貴方に似ている気がするな。髪の色や、目元なんてそっくりだ。賢い子になるに違いない」
赤子を覗き込んで彼が言うと、周囲に控えていた侍女達も楽しそうに笑った。
「御館様。嬰児(えいじ)の髪の色や顔立ちは成長と共に変わりますぞ。勿論どちらに似ても、怜悧な御子になるのは間違いないでしょうが」
槐苑が横からたしなめて、また笑いが起きる。
見るからに幸福に包まれた光景を、季鴬はどこか遠くに思いながら冷ややかな眼差しで眺めていた。
「どうしたのだ、まだ身体の調子が悪いのか?」