六天楼の宝珠〜亘娥編〜
すぐ耳元で囁かれる声、覆いかぶさる気配に急激に彼女の心音が早くなる。
碩有は翠玉の後ろに寄って、窓の外を見ようとしているだけなのに。
つい赤くなって、俯いてしまった。
「……そう、です」
「集合墓地なのですね。入口付近に車を止めて良いですか? 歩く様なら、車を中まで入れさせますが」
外を見ながら答えていた彼は、ふと返事がない妻の顔を覗き込んだ。
「翠玉……?」
結婚して半年以上も経つというのに。こんな何気ない時に、狂おしい位に心をかき乱されるのはどうしてなのだろう。
見透かされただろう恥ずかしさも手伝って顔を上げる事が出来ないでいると、柔らかく首筋に指が触れた。ゆっくりと撫で上げる様に顎を包み込む。
「……墓参りを先にしましょう。ここで貴方の着物を乱しては、ご両親に叱られるでしょうから」
「なっ!」
艶めいた笑いにかっとなってようやく見上げた。さっきまでの子供じみた不機嫌顔はどこへやら、余裕さえ感じさせる表情を浮かべている。頬が火を噴いているのを感じたが、もうこれは開き直るしかない。
「あ、当たり前ではありませんか!」
「ですよね。今日はお父君の命日なのですから、たとえ貴方がどんなに煽る様な真似をしても、自粛するとしましょう」
「あ、煽るって……」
碩有は笑うだけでそれには答えずに、運転席側にある小さな窓を開けると、凛とした声で命じた。
「車を奥にやってくれるか」
碩有は翠玉の後ろに寄って、窓の外を見ようとしているだけなのに。
つい赤くなって、俯いてしまった。
「……そう、です」
「集合墓地なのですね。入口付近に車を止めて良いですか? 歩く様なら、車を中まで入れさせますが」
外を見ながら答えていた彼は、ふと返事がない妻の顔を覗き込んだ。
「翠玉……?」
結婚して半年以上も経つというのに。こんな何気ない時に、狂おしい位に心をかき乱されるのはどうしてなのだろう。
見透かされただろう恥ずかしさも手伝って顔を上げる事が出来ないでいると、柔らかく首筋に指が触れた。ゆっくりと撫で上げる様に顎を包み込む。
「……墓参りを先にしましょう。ここで貴方の着物を乱しては、ご両親に叱られるでしょうから」
「なっ!」
艶めいた笑いにかっとなってようやく見上げた。さっきまでの子供じみた不機嫌顔はどこへやら、余裕さえ感じさせる表情を浮かべている。頬が火を噴いているのを感じたが、もうこれは開き直るしかない。
「あ、当たり前ではありませんか!」
「ですよね。今日はお父君の命日なのですから、たとえ貴方がどんなに煽る様な真似をしても、自粛するとしましょう」
「あ、煽るって……」
碩有は笑うだけでそれには答えずに、運転席側にある小さな窓を開けると、凛とした声で命じた。
「車を奥にやってくれるか」