六天楼の宝珠〜亘娥編〜
「はい。桐で採れるのでしょう? 珍しい石だと聞いて、もし出来れば見てみたいなと思って」

「珍しいというより、産業によく使われるものですから貴重ではあります。物自体は手に入りにくいわけではありません」

 「珍しいと言えば」と碩有は固い料理にも顔色を変えることなく、優雅な仕草で箸を付け口に運んだ。寒粽は食べにくさを考慮して小さく作られている。ややあってから再び口を開いた。

「貴方が何か欲しいというなんて、よほど気になったのですね」

「え、ええ。黒くてそれでいて光の加減で紅く見えるのでしょう。神秘的だわ」

「ですがあれは飾りに出来るものでもないですよ」

「いいのです。一度眺めたらお返ししますから」

 翠玉は少しの間逡巡した。季鴬と会ってもいいか、と聞いてみたかったが今はどうにもその時期ではない様な気がした。

 ふと、碩有が何かを思い出す様な表情をしているのを見咎める。

「どうかなさったのですか?」

「──緋鉱石と言えば、父の霊廟にもそんなものが飾られていたなと思いまして」

「本当ですか!?」

 妻のあまりの驚きぶりに、今度は碩有が唖然とする番だった。

「遺言の形見分けにも入れられておらず、お祖父様も処遇に困りまして結局ずっと持っていたとか。──今、そんなに驚くこと言いましたか?」

「ああいえっ! ちょっと話が早いなと思っただけで──何でもありません!」

「そうですね、確かに霊廟に行けばわざわざ取り寄せる必要もないですし。お祖父様も喜ばれるかもしれない」

 どうやら彼女の発言を違った意味に取ったらしい。

「え、ええ」

 流れで頷いたものの、そう言えば彼は蕃家の墓に来てくれたのだ。

「私が行っても良いものなら……」

 ご先祖に叱られるのでは、と付け加えると、碩有は破顔一笑して妻の危惧を軽く払った。

「どうという事もありませんよ。問題を抱えているのは、いつだって生きている者なのですから」
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