六天楼の宝珠〜亘娥編〜
「し、仕向けたっていうか……その」

「よくある表現で『大きなお世話』っていうの、知ってる?」

「それはもう、重々承知しております。でも──でもですね」

 語尾が消え入りそうになるのを奮い立たせて、昂然と顔を上げる。

「仰る通りです。私は季鴬様に緋鉱石を見てもらいたかった。だから、お二人で霊廟にお参りに行ってはどうかと思ってっ!」

 申し訳ありません、と二人に頭を下げた。

「翠玉……」

「……緋鉱石? それが霊廟に?」

 それぞれ別の理由には違いないのに、親子は揃って同じ表情をしている。つまり、理解に苦しむという。

「でもあの人が亡くなる時には、形見にはそんなものなかったはずだけど……」

 あの人、という言葉に碩有は初めて視線を動かした。それまでは決して母を見ずに、そっぽを向いていたのである。

「──何故、父上のものだとお思いか」

 最初自分に掛けられたものだと思っていなかったらしく、季鴬はややあってから目を見開いた。──まるで、天上からお告げを聞いたかの様な顔をして。

 結局答えずに、俯いてしまった。

 翠玉は義母の顔を覗き込んだ。

「季鴬様。槙文様は遺言に記しはしませんでしたが、緋鉱石を持ち帰っていた様ですよ。もしかしたら、耳飾と違ってご自分で渡すおつもりだったのではないかと、私などは思うのです」

 娥玉の耳飾は以前から注文していたものだから、遺言にも書けるだろう。だが緋鉱石は、恐らく耳飾の数倍は季鴬が喜ぶであろうその石は──当時の状況を考えれば、実際に手渡して笑顔を見なければ意味がない。

 当初翠玉は、槙文を思い出すであろうその石を見せると彼女を呼び出して、碩有と鉢合わせをさせようと目論んでいた。だが。

 周到だった彼が、恐らくはたった一つだけ予定していなかった事。

「……そんなの……わからないわよ……っ。本人に聞いたわけでもないのに……」

 声を詰まらせる季鴬は、きっと置き去りにされたあの頃のままなのだろう。

「わからないですよね。だからせめて──お二人で、恨み言でも言いに行ってみてはいかがですか」

 潤んだ瞳をしきりに瞬かせ、戸惑いの表情を浮かべた。

「恨み言……?」

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