六天楼の宝珠〜亘娥編〜
※※※※

 三人揃っての霊廟への訪問は、それから更に二日後にようやく実現した。

 碩有が一族の古老などからの反対を押し切ったらしい、とは本人の口ではなく例によって槐苑の話である。

 山とも見紛う小高い丘に、石造りの寺院の形に起伏をなす、美しくも確かに何処か寂しい場所だった。

 建物はあっても、生者の気配はない。静謐だけが辺りに満ちている。

「……槙文様」

 重くきしむ門扉を開けて中に入り、中央の祭壇に辿り着くと季鴬は震える声で告げた。

 白き玉石で出来た繊細な装飾の祭壇の手前には、花に囲まれた棺の形をした台座。

 そして花々に埋もれる様にして、黒く光る石が置かれている。

「棺の中には亡骸のみを納めるのがしきたりなので、供物と同じ扱いに致しました」

 大きな廟堂の内に、碩有の声はやけに響いた。

 季鴬が手を伸ばして緋鉱石にそっと触れる。

「冷たい……」

 両手に包み込んだ。

「本当は、石が好きだと言った理由を今まで誰にも語った事はなかったの。変わっていると侍女達に言われそうで黙っていた。……なのにどうして貴方に言ってしまったのかしら」

 亡き人への手向けの言葉だったとわかっていたから、碩有も翠玉も答えなかった。

「貴方は知らなかったでしょうけど、私は結構色んな話をした方だったのよ。……そうね。楽しかったのかもしれない」

 愛おしむ様に石肌を撫でる。

「この石の冷たさが好きだったのに。不思議ね、今はとても……悲しいの」

 涙を零したわけでもないのに、翠玉ははっきりと季鴬が哭(な)いていると思った。

「素直になれなくて、ごめんなさい……」

 彼が生きている間は決して口に出来なかった言葉。

 消え入りそうにかすかに呟いて、石を抱いたまま彼女は項垂れ表情を隠した。細い肩が、わななく様に震えていた。
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