六天楼の宝珠〜亘娥編〜
※※※※

 これできっと親子の溝が埋まる。

 そう思っていた翠玉の期待を裏切る様な報せが届いたのは、霊廟に参ってから僅かに二日後の事だった。

「季鴬様が邸をお出になるのですか? 本当に!?」

 驚きの余り後半裏返った声のせいではないだろうが、いつもの宵始めにやってきた碩有は力なく椅子に身体を投げ出し頷いた。

「ここを出て、陵に住まいを移したいと言って来ました。それだけではなく、各所を旅して鉱石の採集を始めたいと」

「そんな──だって、あの場所には人が住める様な設備はないでしょう」

「隣に楼閣を建ててだそうですよ。母には確かに陶家だけでなく鄭家からも結構な資産が与えられていますから、自分の費用だと言われれば反対する理由はありません」

 翠玉は思わず椅子に乗り上げ、額に手を当てて呻く夫の襟元を両手で掴んだ。

「だとしても、地所が陶家のものなら断れるのではありませんか。あんな周りに街もない、寂しい場所に住まわれるなんて絶対にいけません! 碩有様、まさかそれでお許しになったのですか?」

「私だって反対しましたよ。しましたが」

『元々領主の母親だって、本来は六天楼から出られなかったはずでしょ。比べれば尼僧院でもないし、辺りは自然に囲まれているし私にとっては願ってもない場所だわ。侍女に少し申し訳ないから、色々考えるつもりだけど。やっぱり私、石が好きなのよ』

 それに息子の貴方はもういい大人だし、何の問題もないと思わない? 邪魔しちゃ悪いでしょ──

 季鴬は妙に楽しそうに笑ったらしい。

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