私は博士に恋してる。
論文を書く事は小さなことかもしれない。その文章が全て世の中に受け入れられるわけではない。研究者とはとても孤独な部分もあり社会との接点がごく普通の会社と言われる場所に比べれば若干違いがあるのは確か。学位の世界というものは会社とは違う。

　そんな彼に私は魅かれ、彼も同時に私に魅かれた。けれど交わることも触れることもできなくなった。それは彼がアメリカへ研究者として向こうの研究所へ行ってしまったこととお互い一緒にいて気を遣いすぎて却って疲れてしまう可能性があったからだ。

それでも彼は私にプロポーズの言葉を言ってくれた。けれど私はそれを断ることしかできなかった。少し哀しいことだけれどそうする事がお互いの将来のためなのだ。

私が彼のプロポーズを断った理由はまだ私の考えが幼かったからかもしれない。
自分の力がそう答えたからかもしれない。けれど、どうしても好きになりきれなかった。心から“好き”とか“愛おしい”と思えなかった。本気で好きならどこまでも着いて行き彼と一緒に将来を築いて行ったと思う。

それでも私は彼の想いを受け止めて一緒にアメリカへ行って過ごせばよかったのだろうかと思い返して悩む時がある。生活に苦しくなったり会社の件で揉めたりした時に特にそう思った。彼のプロポーズを受け入れて今頃アメリカにいたら私は英語もペラペラになってもっと自由に人生を謳歌していたのだろうか？そう何度も考えた。
けれどそれは違う、ただ自分の生活や現状に満足出来ずに心のどこかで彼に対して自分なりの“甘え”があったのかもしれない。彼と交わっていれば何か変わっていたのかもしれない。そう心の中で何度も思った。後になって彼のことを“好きかもしれない”と想い返す時もあった。
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表紙・目次

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