6月の蛍―宗久シリーズ1―
「僕が入れたので、味の保証はできませんが」

「そんな事ございません」




静かに微笑み、咲子さんは椀に口をつけた。



僕の入れたお茶は、咲子さんの白い喉を綺麗に波打たせる。





一口飲み下し、咲子さんはほっとした様に呟いた。






「…ああ……温かい…」






思わず、僕は笑った。



「今夜は少し冷えますからね。僕が入れたお茶でも、暖くらいはとれるかな?」

「そんな、美味しいです。とても」

「おかわりありますよ?」




僕の言葉に、咲子さんは初めて声を立てて笑った。




まるで、銀の鈴が転がる様な、透明な笑い声。







「私に、そんな風に言って下さる方がおりました。ぼんやりと今、思い出してしまって」

「恋人ですか」

「恋人………」






質問に、咲子さんの表情から笑みがかき消えた。






「恋人なのでしょうか……」

「男性なのでは?」

「ええ、そうですけれど……」

「恋人ですよ。あなたの表情を見れば、いくら鈍感でもわかりますよ?」

「私も、そうなのだとは思いますが………」
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