6月の蛍―宗久シリーズ1―
「でも私は幼くて…あの人を苦しめてばかり…」
「そんな事はありませんよ」
「いいえ、いいえ……」
咲子さんは、激しく頭を振った。
艶のある黒髪が数本、はらりと白いうなじに流れ落ちる。
「自分が許せないのです…私は、あの人を幸せにする事ができない…私には…できなくて……そのためにあの人は苦しんで……何も言わない、私を責めないあの人の優しさが心苦しくて……私がいなければ……あの人は苦しまずに済んだのに………」
うつむいた瞳から一粒の雫が落ち、固い座卓の上で弾けた。
二粒目が茶碗の中に吸い込まれていくのを見つめ…僕は気付いた。
真実は………。
「まさか………咲子さん…」
言いかけて、止めた。
今更それを問い掛けて何になる?
僕に理解する事はできない。
全てを理解する事はできないのだ。
解る事は、咲子さんは悔いている。
悔いる事で、現実から目をそらしていたに違いない。
呪縛だ。
あの人も悔いていた。
お互いを思いやる気持ちは残酷な呪縛となり、逆に互いを離す結果になったのだろう。
「そんな事はありませんよ」
「いいえ、いいえ……」
咲子さんは、激しく頭を振った。
艶のある黒髪が数本、はらりと白いうなじに流れ落ちる。
「自分が許せないのです…私は、あの人を幸せにする事ができない…私には…できなくて……そのためにあの人は苦しんで……何も言わない、私を責めないあの人の優しさが心苦しくて……私がいなければ……あの人は苦しまずに済んだのに………」
うつむいた瞳から一粒の雫が落ち、固い座卓の上で弾けた。
二粒目が茶碗の中に吸い込まれていくのを見つめ…僕は気付いた。
真実は………。
「まさか………咲子さん…」
言いかけて、止めた。
今更それを問い掛けて何になる?
僕に理解する事はできない。
全てを理解する事はできないのだ。
解る事は、咲子さんは悔いている。
悔いる事で、現実から目をそらしていたに違いない。
呪縛だ。
あの人も悔いていた。
お互いを思いやる気持ちは残酷な呪縛となり、逆に互いを離す結果になったのだろう。