6月の蛍―宗久シリーズ1―
…………もう、いい。



もういいだろう。



自分を縛らなくてもいい。



許して、あげてほしい。







「咲子さん」




呼び掛けに、咲子さんは涙で湿った睫毛を上げた。





「もう、いいんですよ。辛い事は思い出さなくていい。それにだけ捕われてはいけない」


「でも……私……あの人の名前も思い出せない……」


「大丈夫ですよ」





僕は両手を伸ばし、咲子さんの手を握りしめた。





「あなたの大切な人の面影だけを、ゆっくりと思い浮かべて下さい」


「面影を……?」






細い声に、僕は無言でうなづいた。





それに応えるかの様に、咲子さんの手が僕の手を握り返してくる。







………もう、いいんですよ。



苦しい事は、もういい。


あなたは充分、苦しんだ。


自分の罪を悔いてきたでしょう?




同じ様にあの人もまた、充分苦しんできたんです。



二人共、もう気付いているでしょう?




だから、もういい。



いいんです。





終わりにしましょう。




僕が伝えます。






今夜で、終わりにしましょうよ。
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