6月の蛍―宗久シリーズ1―
父が三年前に亡くなり、さすがに大きな家で母一人住まわせる事に不安を感じた僕は、妻と五歳の息子を連れて実家に戻った。



母は喜んだ。



最初は不安だった嫁姑の間は、僕が心配するまでもなく、女同士、うまくやっているらしい。


僕よりも、むしろ妻が実の娘なのではないかと言われるくらいだ。


元々、母も妻も社交的であるし、嫌味なく言いたい事を言う性格なので、気が合うのだろう。


とりあえず、不安が空回りであった事に安堵している。







林の中を100メートル程走り、突き当たりにある庭の隅に車を停めた。



実家は、大きくて古い。

昔ながらの庄屋造り、伝統的な日本家屋だ。

少なくとも、200年は経っているだろう。




広い玄関に上がり、濡れた靴を隅に置く。





家には、誰も居なかった。

妻の車が無かった所を見ると見当はつく。





病院だ。



昨夜から、伯父の具合が良くない。


末期の癌だ。





父の兄である康弘伯父さんは、父とは10年離れているので現在73歳だ。


43年前に妻を事故で亡くし、それ以来独り身を貫いてきた伯父に子供は無い。
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