6月の蛍―宗久シリーズ1―
記憶1
「あなた、見て下さい」


「ああ、蛍だね」




夏、夕涼みに出た私と夫は、通り掛かった神社の脇の小川で、今年初めての蛍を見つけた。





まだ新しいその光は、少し弱々しさが残っていた。



だがはっきりと、闇夜に支配されかけている薄暗い景色を、穏やかに照らしていた。





健気に、懸命に、ここに居るよと、自分の存在を、その意義を、全てその尾の光に乗せて……。








「綺麗」

「本当だね」




私と夫は、しばらくその場に佇み、蛍の光を見つめていた。





水辺に咲く山百合の葉から、ふわりと蛍が離れる。




「あっ………」


「行かせてあげなさい、咲子」






手を伸ばし、それを掴もうとした私を夫が止めた。




「あんなに綺麗な蛍を、独り占めしてはいけないよ?他の人の目も楽しませてあげなくては」




振り向いた私に、夫は優しく言葉を続ける。




「僕達が蛍を見て幸せな気持ちになれたのなら、それは誰も同じ事なのだから」



「ええ、そうですね」






そんな夫に笑顔を返す。




夫もまた笑い、私へと手を伸ばす。
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