6月の蛍―宗久シリーズ1―
その指が、優しく私の髪に触れる。




「鼈甲の簪、やはり咲子に似合ったな」


「あなたが見立てて下さった物ですもの」


「実は不安だったよ。僕には贈り物を選ぶ才能が無いからね」




照れ臭そうに笑い、はにかむ夫。




「いいえ、私、とても気に入りました」



簪に添えられた夫のその手を、そっと握った。


夫も、手を握り返してくれた。






大きくて、温かくて、優しい夫の手。



それに私は、何度励まされてきた事だろう。







私は、夫を愛していた。



優しくて穏やかで、いつも幸せで私を満たしてくれる。



笑顔が、その大人らしさが、好きだった。



憧れてさえいた。




幼い私を、不安から遠ざけてくれる。






身体が丈夫ではない私にとって、夫の優しさは全てだった。



ただ、この人のそばで一生を添い遂げられるなら、それだけでいい。




この人の暖かさを、1番近くで感じていたい。




他には何もいらなかった。







でも、夫の優しさは、時には残酷でもあった。






.
< 22 / 93 >

この作品をシェア

pagetop