6月の蛍―宗久シリーズ1―
その指が、優しく私の髪に触れる。
「鼈甲の簪、やはり咲子に似合ったな」
「あなたが見立てて下さった物ですもの」
「実は不安だったよ。僕には贈り物を選ぶ才能が無いからね」
照れ臭そうに笑い、はにかむ夫。
「いいえ、私、とても気に入りました」
簪に添えられた夫のその手を、そっと握った。
夫も、手を握り返してくれた。
大きくて、温かくて、優しい夫の手。
それに私は、何度励まされてきた事だろう。
私は、夫を愛していた。
優しくて穏やかで、いつも幸せで私を満たしてくれる。
笑顔が、その大人らしさが、好きだった。
憧れてさえいた。
幼い私を、不安から遠ざけてくれる。
身体が丈夫ではない私にとって、夫の優しさは全てだった。
ただ、この人のそばで一生を添い遂げられるなら、それだけでいい。
この人の暖かさを、1番近くで感じていたい。
他には何もいらなかった。
でも、夫の優しさは、時には残酷でもあった。
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「鼈甲の簪、やはり咲子に似合ったな」
「あなたが見立てて下さった物ですもの」
「実は不安だったよ。僕には贈り物を選ぶ才能が無いからね」
照れ臭そうに笑い、はにかむ夫。
「いいえ、私、とても気に入りました」
簪に添えられた夫のその手を、そっと握った。
夫も、手を握り返してくれた。
大きくて、温かくて、優しい夫の手。
それに私は、何度励まされてきた事だろう。
私は、夫を愛していた。
優しくて穏やかで、いつも幸せで私を満たしてくれる。
笑顔が、その大人らしさが、好きだった。
憧れてさえいた。
幼い私を、不安から遠ざけてくれる。
身体が丈夫ではない私にとって、夫の優しさは全てだった。
ただ、この人のそばで一生を添い遂げられるなら、それだけでいい。
この人の暖かさを、1番近くで感じていたい。
他には何もいらなかった。
でも、夫の優しさは、時には残酷でもあった。
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