6月の蛍―宗久シリーズ1―
知っている。



私は全て、知っている。



知っているからこそ、夫の口から聞きたかった。



私に隠しているだろう、その夫の口から……。







だが、夫は笑う。


「何も、ないよ」



優しく笑うのだ。





「咲子は、何も心配しなくてもいい」


そう言って、優しく…私の肩を抱きしめてくれる。










ああ……あなた…。




言って下さればいいのに。



私にも、あなたのその苦しみを、打ち明けて下さればよろしいのに………。




子供ができないのは、あなただけのせいではないのに…なぜあなただけが全て背負い、苦しんでしまうのですか。









優しすぎます、あなた。






あなたの優しさは愛しいけれど…こんな時は、残酷にさえ思えます。





あなたの口からの言葉ならば、私は傷付く事はありません。



なぜ、私に何も言っては下さらないのですか?




あなた……。


知らない振りは、心苦しいのです。




けれど、あなたが優しいから、あまりにも優しいから…。





私は、何も聞けなくなるのです。








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