6月の蛍―宗久シリーズ1―
今以上に苦しむだろう。


それでも、あの人は私に笑いかけるだろう。




優しすぎる人だから……。





「自宅は駄目ですかぁ」



金森は言葉を繰り返し、右手で髪を掻き回していた。






検査の結果が出るのは、一週間後。






「わざわざ、病院まで聞きに来るのも大変でしょう」



私は一週間後、金森の自宅を訪問する事に同意した。




金森らしくない気遣いに、違和感を覚えた。





けれどその時の私には、誰にも知られたくはないという思いの方が強すぎて、その違和感を思考の奥底に追いやってしまったのだ。









あの時…感じた違和感をしっかり受け止めていれば、私は最悪な状況に追い込まれる事は無かったのに………。













一週間後、私は検査結果を聞く為に、金森の家へと向かった。


彼の家は、自宅から歩いて三十分程の距離だ。




少し長い散歩と思えば、どうと言う事はなかった。











その日は、残暑が厳しい日だった。




湿気を含んだ熱気が身体にまとわりつく感覚は、去らなければならない夏の悪あがきの様に思えた。
< 28 / 93 >

この作品をシェア

pagetop