6月の蛍―宗久シリーズ1―
―子供ができなんだら、家を去ってもらうしか……―


姑の言葉が、耳の奥で繰り返される。






家を…去る……。



私の居場所は…………。









「…………嘘」





そう思いたかった。




そう思えたら、どれほど楽だろう。





これは全て、夢なのだと……悪い夢を見ているのだと。






子供ができない。


私は女なのに、愛する夫との子供を望めないのだ。




認めたくはない。







この不条理を、何にぶつければいいのだろう。



こんな身体に生まれ落ちた、自分を恨めばいいのだろうか。


運命を恨めばいいのだろうか。







わからない。




何も…………。









「咲子さん、こればかりはどうしようもありませんよ」



うつむき、震える私の肩に、金森の手が添えられた。



「たまたま不幸が、あなたの身体を選んだだけの事です」






不幸が、たまたま……私を?








なぜ、私なの。


なぜ、私が選ばれたの。



私はただあの人との、平凡な幸せを得られれば……それだけでいいのに………。



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