6月の蛍―宗久シリーズ1―
うつむく私の首筋を、湿り気を含んだ金森の手がなぞった。



酒臭を帯びた息が耳に触れ、私は我に返る。








「……何をなさるの?!」







突き放した私を、金森は笑った。





あの…品定めをするかの様な、ねっとりと張り付く視線………。









「大丈夫ですよ。咲子さんの身体の事は、誰にも他言しませんから」

「………何…を…?」

「あなたの夫にも、ましてや姑に等言いませんよ」

「…………あなたは…」

「秘密なんでしょう?誰にも」

「…………」

「この事を知っているのは、俺と咲子さんだけですよ」









………ようやく…私はなぜ金森がここへ呼んだのか、その意味を理解できた。





金森の妻が留守だった意味も、やけに協力的だった意味も……。









「あなた……最初から……」

「心外だな。ここに来る事を承知したのは、あなたじゃありませんか」









…………私は、何て浅はかだったのだろう。






簡単に、医師としてのこの男の言葉を、信用してしまった。




夫の友人でもあるのだと……簡単に…………。




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