6月の蛍―宗久シリーズ1―
記憶3
帰宅した私の身体には、あの金森の酒臭が残っている様な気がしてならなかった。



あの、ねっとりとした体温も………。






夢で、あってほしい。



けれどそれは、時間が過ぎる程、苦痛の感覚として私の呼吸を詰まらせる。







汚れた気がした。




秘密を隠す為に、今を守りたい余りに、私は取り返しのつかない事をしてしまった。






苦しい…………。




私は、何て事を………。







悔し涙は、うつむく私の頬を流れ落ち、山葵色の着物へと吸い込まれていく。








「咲子!咲子!」



………姑の声だ。



「はい」




着物の袖で慌てて涙を払い、部屋の襖を開ける。







「夕げの支度はどうした」


「あ………」




廊下に立つ姑に言われ、柱時計に視線を移した。





もう、夕方………。






「申し訳ありません、お義母様。すぐに」

「何をしておった」




刺す様な視線……。





「……汗をかいてしまいましたので……着替えを…」





言い訳が、口をついた。




気付かれてはならない……。







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