6月の蛍―宗久シリーズ1―
次の日、金森に簪を聞く為、私は病院に電話を入れた。




直接会って話すのが、嫌だった。




私の身体には、金森の執拗に絡み付く蛇の様な悍ましい感覚が、鮮明に残されていたからだ。



消える事は、無い……。










「あぁ、簪ですか?預かっていますよ」




金森の軽い口調。








この男は昨日私にした事等、恥とも思ってはいないのだ。



罪の意識等無いのだ。





「返しては頂けませんか?大切な物なのです」




これ以上、金森と関わりは持ちたくは無い。


簪さえ戻れば……。








「返す?」




受話器の向こう、金森の笑い声が微かに聞こえた。






「いいですよ。取りに来て頂けるなら」


「本当ですか」







…………良かった…。



簪が戻って来る。



安堵から、強張った肩の力が抜けていくのを感じた。








しかしそれは、一瞬の出来事として通り過ぎただけであった。








「では私、明日にでも病院の方にお伺いして…」

「いえ、自宅の方に来て頂けませんか?」

「……………え」






.
< 39 / 93 >

この作品をシェア

pagetop