6月の蛍―宗久シリーズ1―
「簪は……私、少し…傷をつけてしまって……」

「傷を?」

「ええ……それで、修理に出しております」

「あぁ、そうなのか」



笑う、夫。










嘘を、ついた。




夫に嘘を………。




頭で考えるよりも先に、唇が言葉を紡いでいた。








私は、いつから…こんなに言い訳が上手くなってしまったのだろう。



無表情で、嘘をつける様になってしまったのだろう。





明らかに、私は変わってきている。







どうして………。






夫に、嘘はつきたくないのに。



けれど、嘘をつかなければ………私は………。








「咲子?」





呼ばれて、瞳を上げた。






鏡の中、後ろには、私を案じる夫の姿が映っていた。





「元気が無い様だが、体調が良くないのか?」

「……いいえ…そんな事…」



再び、瞳を伏せた。





夫の瞳を、まっすぐに見つめ返せない自分がいた。





鏡の中、並ぶ私と夫……。



夫婦………。





けれどその関係は、私の犯している罪の上にある。



危う過ぎる位置に………。



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