6月の蛍―宗久シリーズ1―
あなた………。


あなたには、おわかりになる?



こうしている時、私がどれほど幸せなのかが。





あなたの声、腕、小さな仕草、全てが愛しくてたまらなくなる、私の気持ちが。







あなたが抱きしめてくれる度に、私は自分さえも愛しく感じられました。


あなたの様な方に愛されている自分を、誇りにさえ思えました。





それなのに……私は………。









「あなた……抱いて下さい…」


「咲子…」


「何もお聞きにならないで……ただ、抱いて下さるだけでいいの………」








すがる私の身体を、夫は強く抱きしめてくれた…。





私の名を呼ぶ夫の、その唇の柔らかさを感じながら、想う事は一つ…。









あなた………愛しています。






あなただけを、愛しています。








ただこうして、あなたの優しさを受けて、あなたの唇の在りかを確かめて、私の名を呟く声の響きを感じて、その体温で包み込んで…暖めて下さるだけで……それだけで私は、何もいらないと思えてしまう。




あなた以外の欲が、消し飛んでしまうのです。






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