6月の蛍―宗久シリーズ1―
記憶5
本家であるこの家は、正月ともなると分家からの挨拶等があり、目が回る程の忙しさになる。



姑に対しても、いつも以上に気を使う。





本家の嫁である私が粗相をしない様、更に厳しくなるからだ。






和やかな挨拶の場、話題に上るのは、後継ぎの話………。







そんな時、私は席を外したくなる。



逃げたくなる。




親族に返す笑顔が引き攣っているのが、自分でも嫌な程にわかるからだ。




親族に返答する姑の言葉は、私に対する言葉程の辛辣さはないが、明らかに嫁失格と明言するものだ。








この人達に、私の身体の事実が知れたなら……。







考えて、居心地が悪くなる。




私は、ここに居てはいけない人間の様に感じてしまう。









夫は、そんな私に必ず気付く。



場を濁さない様、さりげなく姑に釘を刺し、私をその場から離してくれる。





「咲子は何も悪くはない。僕の言葉だけを信じていてくれればいい」



そんな悲しい顔をするなと、抱きしめてくれる。






冷たいこの家の中、信じられるのは、夫の温もりだけだった。


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