6月の蛍―宗久シリーズ1―
あんぐりと口を開き、返す言葉が無くなる夫を見、思わず笑う。


この兄弟は仲が良い。




この厳しい家で、冷たい家で、親の圧力から逃げ出したい気持ちに耐えながら、二人で寄り添ってきたのだと夫に聞いた事がある。



夫と違い、義弟はどちらかと言えば天真爛漫な性格だ。


私は、この義弟が好きだった。






「行って来るよ、咲子。こいつの世話はしなくてもいいからな」

「心配しなくても、兄さんの大切な奥様にお世話はかけませんよ」



悪態ばかり育ってと、ぶつぶつ唱えながら出勤する夫を見送った。






「今日帰ると言っていたけれど、何時に?」


私の質問に、義弟は夫に振っていた手を降ろす。

「昼くらいに帰ろうと思います」

「なら私に、駅までお見送りさせて下さい」



義弟は、眉をひそめた。



「駄目です」

「…なぜですか?」




即答に、私は首を傾げた。


義弟は、悩む様に小さく唸る。



それからゆっくりと顔を上げ、私を見つめた。




押しの強い視線。



「できるなら…義姉さんには今日、一歩も外には出てもらいたくありません」



どういう意味なのだろう。
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