6月の蛍―宗久シリーズ1―
「義姉さんは今日、外出してはいけない。どんな事があっても出てはいけない」





義弟は時々、理解できない事を語る。


突然に。






元々、独特の雰囲気はある。



何と言うのだろう……違うものを見ていると言うのだろうか。





実際、義弟は不思議な男だった。



会話の途中、何かに気付いた様に途切れる言葉や、目の前の出来事を通り越して、遠くを見つめる視線とか。






「弟は子供の頃からそうだ。あいつにしか見えない、何かがあるらしい」


草花や動物とも話をするやつだ。






夫は以前、そう言っていた。






今もそうだ。







私を見つめる義弟の視線の先は、私では無い。



通り越して、違うものを見ている感じを受ける。




私の背後にある、遠くにある、何かを………。







「義姉さん、俺の見送りなんて気にしなくていいですから、今日は家から出ないで頂けますか?」




念を押す様に、言葉を繰り返す義弟。




その瞳は、言葉は、私の中にあるものを見抜いているのだろうか。




私の中にある……汚れた……。



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