6月の蛍―宗久シリーズ1―
軽くお辞儀をし、私は居間を後にした。
本家の嫁が、あんな気楽でいいのかしら……そんな中傷を背に聞きながら。
金森の家の雰囲気は、私を麻痺に誘う。
悪意と欲情とが混濁し、重く澱んでいる。
金森の性欲の重さを受けながら、自分に言い聞かせる。
この身体は、私のものではない。
だから、何も感じない。
人形の様に、金森の気が済むまで…動かずに…。
全ての感情を閉じ、凍結させる。
ただただ無言で、寝室の、寝心地の悪い硬いベッドに身体を横たえて、天井だけを見つめていればいい。
そうしていれば、時間が過ぎる。
ただ、それだけを待てばいい…………。
「簪を、返して下さい」
私は、ガウンを羽織る金森の背に願いを訴えた。
毎回、同じ言葉をかけている。
この男の返答も、毎回同じであった。
「近い内に、返してあげますよ」
分かっている。
この男のずるさは、身を持って知っているはずなのに……。
毎回、期待をしてしまう。
.
本家の嫁が、あんな気楽でいいのかしら……そんな中傷を背に聞きながら。
金森の家の雰囲気は、私を麻痺に誘う。
悪意と欲情とが混濁し、重く澱んでいる。
金森の性欲の重さを受けながら、自分に言い聞かせる。
この身体は、私のものではない。
だから、何も感じない。
人形の様に、金森の気が済むまで…動かずに…。
全ての感情を閉じ、凍結させる。
ただただ無言で、寝室の、寝心地の悪い硬いベッドに身体を横たえて、天井だけを見つめていればいい。
そうしていれば、時間が過ぎる。
ただ、それだけを待てばいい…………。
「簪を、返して下さい」
私は、ガウンを羽織る金森の背に願いを訴えた。
毎回、同じ言葉をかけている。
この男の返答も、毎回同じであった。
「近い内に、返してあげますよ」
分かっている。
この男のずるさは、身を持って知っているはずなのに……。
毎回、期待をしてしまう。
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