6月の蛍―宗久シリーズ1―
弘文とは、僕の父だ。


父は三年前に亡くなっている。




「…そんな…他界していらしたなんて…………」




知らなかったらしい。


彼女の表情が、みるみる不安に支配されていくのがわかった。





「弘文さんがいないと…私……わからないのに…弘文さんじゃないと………どうしても聞かなければいけないのに………」




うつむき、ぽつぽつと不安をこぼす彼女は、今にも泣き出しそうだ。







困ったな………。



どうすればいいのか。




「父は生前、何をお話したのでしょう」


「何と聞かれましても……困ったら来てもいいと、そう言って下さったんです」






困ったら?



いや、困ってしまうのは僕の方だ。


父が亡くなって三年も過ぎているのに。




父に聞きたい事とは何だろうか。



僕にもわかる事なんだろうか。



父は秘密が多い人だったから。



とりあえず、出来ない事ならお引き取り願うしかないかな?



「あの…」

「はい」

「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「あ…私ったら…」


僕の質問に、彼女は白い頬を微かに赤く染めた。
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