6月の蛍―宗久シリーズ1―
私の肘にあたった物……。












それは、簪だった。








金森が持っているのだと信じていた、鼈甲の簪だったのだ………。










震える指で、それを拾い上げる。





どれ程の長い時、紫陽花の陰に隠れていたのかと思う程、簪は土と砂にまみれていた。





指でなぞると、乾いた土がほろりとこぼれ落ちる程に。







なぜ……………こんな所に……。










私は、去年の夏の光景を、記憶から手繰り寄せる。







「………あ」








思い出した。












あの、金森の家に行った日、私は朝……庭に出た。






庭に咲く花を飾ろうと……切り花を探して………そうして髪を…紫陽花の枝に……引っ掛けてしまって…。









これは………あの時……。










途端、金森への怒りが、沸々と沸き上がる。





指が、唇が、その怒りが沸点にさしかかりそうな気持ちを現すかの様に震える。






金森の元に、最初から簪等無かったのだ。





あの男は、私を騙していた。






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