6月の蛍―宗久シリーズ1―
やり直そう……初めから。

まだ、間に合う。


夫に打ち明ける事で、修正できる筈だ。








簪を握り締め、立ち上がった。



肩掛けを手に取り、紫陽花を見つめる。









この木が、金森から簪を守ってくれたに違いない。



手遅れにならない内にと、風の悪戯を使い、私に教えてくれたに違いない。





「ありがとう……」




呟き、紫陽花の枝を撫でた。




次の盛りである梅雨まで眠っているのだろう紫陽花の枝は、寝ぼけているかの様に、微かに枝を揺らした。






今夜、夫に打ち明けよう。



そうすればきっと、新しい風が吹くに違いない。










簪と決意を胸に、私は玄関の戸に手を掛けた。







「………」








戸が、閉まっている。







そんな筈は無い。








もう一度、手を掛け引いてみる。





隙間無く閉じられた戸は、私の力を跳ね返す。









やはり、鍵がかけられている。



なぜ。





姑は、出掛けているのだろうか。




いや、姑がこの時間に出掛ける事は無い。



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