6月の蛍―宗久シリーズ1―
「私、咲子と申します」

「……え?」



…………咲子?





聞いた事がある。


咲子……。






「………咲子……さん?」

「はい」







…………ああ、そうか。


僕は、この女性を知っている。


彼女は僕を知らないだろうけど、僕は知っている。



名前だけで、会ったのは今日が初対面だが。






そうか、そういう事なのか。




僕は納得した。



正確には、僕だけが納得しているに過ぎないが。




いや、父もだろうな。




父は自分が他界したら、僕がこうなる事を予想していたはずだ。


なのに、何も聞かされていなかったが。



父らしいと言えば父らしい。


本当に意地の悪い…………。




-まぁ、頑張れよ-

そう言って笑う父の顔を思い浮かべ、軽く舌打ちをした。


目の前に立つ咲子さんを見つめる。





「弘文に、聞きたい事があると言いましたね?」

「はい……」

「では、どうぞお上がり下さい」



これも、縁だ。


縁と言うより、父の肩代わりと言う方が正解かな?
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