6月の蛍―宗久シリーズ1―
記憶8
もう、何時間歩いたのだろう。


時間の感覚が無かった。



積もり始めた雪を踏み締め、ただ歩く。





行く宛ては、無い。


私はもう、どこにも行けない。



帰りたい場所は、もう…無い。


優しくて暖かい夫の腕は、永久に失われてしまったのだから。







どうすればいいのか、わからない。


どこへ向かえばいいのかも………。










寒い…………冷たい……。







両手が、氷の様……。






頬にかかる吐息も、温かみを感じられない。



もう、私は凍ってしまっているのではないだろうか。









降り続ける大粒の雪は、容赦無く私の冷えた肩に、頭に、降り積もる。




少し、風も出ている。




肩掛けを深く被り直し、歩を進めた。













街灯の無い、暗い夜道。





歩いて、歩いて……たださ迷う様に歩き……。








私はいつの間にか、見慣れた景色の中に立っていた。






………神社。




夏、夫と夕涼みに出た神社の石段の上に、私は立っていた。





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