6月の蛍―宗久シリーズ1―
ここで、蛍を見つけた。




淡く若い光に、私と夫は見とれた。


健気に辺りを照らす光に、幸せな気持ちになれた。






―鼈甲の簪、やはり咲子に似合ったな―







笑い、私の髪に触れる夫の指が、鮮明に浮かび上がる。




優しくて、温かい……あの人の………。








懐から、簪を取り出した。



綺麗な、簪。






紫陽花に隠れついてしまった泥は、私の罪の様だ。




簪に込められた夫の想いを踏みにじってきた、私の罪の様………。











震える手で簪を握り締め、そのまま髪に挿した。





今の私に、この泥を落とす資格は、無い。









神社は、静かだ。




静寂で…淋しいくらいの孤独感を私に与える。








石段の脇には、小川が流れている。




あの蛍は、ここから生まれたのだろう。






綺麗な場所でしか生きられない蛍。



だからこそあれほどの、美しい光を生み出せるのだろう。








私は今まで、あんな風に光れた時はあったのだろうか。






今となっては、思い出せない。



.
< 72 / 93 >

この作品をシェア

pagetop